私と息子はその日の夕方から、大阪出張に行くことになっていた。
駅までの道を、キャリーケースを転がしながら歩いていると
息子が
「今日、学校に児童なんとか・・みたいな人が来て、副校長先生と話したんだよ」
と唐突に話し始めた。
「児童なんとか？」
「うん、女の人二人で、知らない人」
「誰だろう・・教育委員会？」
息子は特別支援学級に入っているのでその面談か？と思ったけど
「いや、教育委員会じゃなかった」
「もしかして・・・児童相談所？」
「あ、そうそう児童相談所！」
全身の血の気がサーーー・・・と引いていく感覚がした。
え？ なんで？ 誰が・・・？
児童相談所が息子に会いに、
学校まで来た。
その言葉だけがぐるぐる回ってる。
慌ててスマホで検索したら、
出てくるのは「一時保護」「虐待」「連れ去り」。
児童相談所といえば、虐待やネグレクトの疑いのある子どもを保護する機関。
通報は匿名で入り、
児童相談所は通報を受けたら72時間以内に該当の子どもの安否を確認しなくてはいけないらしい。
怖くて指が震えて、ページを閉じられない。
何が起きてるのか分からないまま、息子が目の前にいることだけが現実で、
ただ「無事に帰ってきてくれてよかった」。
虐待。ネグレクト。通報。
重い言葉、私には縁がないと思っていた言葉が、今目の前に、重くのしかかっている。
何も悪いことしてへんのに、なんで疑われなあかんの。
面談をしに児童相談所へ
数日後、出張で宿泊先に滞在しているときに
児相から電話がかかってきた。
少しでも何かを突かれたら衝動的に怒鳴ってしまいそう。
そのくらいこっちはいつでも臨戦態勢やぞ？
さあなんでも聞いてくれ。
堂々と答えたるぁ。
意気込んで電話を取ると、それはそれは穏やかな語り口調の女性が
丁寧に、丁重に、話し始めた。
「息子さんの件でご連絡をいただきまして、
確認のために一度、お話を伺いたいんですが、
お母様もお忙しいところ大変恐縮ですが、お時間をいただけますか？」
こちらの準備とは裏腹に
電話越しの職員は驚くほど低姿勢であった。笑
日時の約束を取り付け、その日は電話を切った。
ママチャリで児童相談所へ
もちろんこれまで児童相談所なんて無縁な人生を送ってきたので、
「虐待された児童を保護する場所」くらいにしか認識できていない私は、今から何をされるのだろうかと不安でいっぱいであった。
私が児相で面談をしている間に、
別の職員が子どもを保護しに学校へ向かってたらどうしよう。
取り調べのような部屋で問い詰められるのだろうか。
・・・そんなことを考えながら、ペダルを踏み込む。
施設に到着すると職員の女性二人に部屋に案内され、早速面談が始まった。
心当たりは・・・
児童相談所への通報は基本匿名で行われ、児童相談所は通報者に対する守秘義務があるため
通報者が誰なのかは聞いても答えてもらえることはないが、
「どんな内容の通報が入ったのか」は教えてもらうことができる。
考えてみてほしい。
ーもし、あなたが子どものことで児童相談所に通報されたら。
あなたは、胸を張って
「通報されるような心当たりは一切ありません」と言えるだろうか。
・・・私は、自信を持って通報を否定できるような子育てをできていたか？と言われると
全くそうではなく、実は通報の心当たりはありまくりだった。
よく
「外出先で子どもを大声で叱ったら通報された」とか
「外で子どもが騒いでたら通報された」とか
「子どもが夜中に泣き止まなくて通報された」とか
「子どもたちだけで留守番させたら通報された」とか
一部分を切り取って通報されることは割とよくあるらしい、
ということはなんとなく知っていたので、
週末でも留守番をさせたり、仕事が忙しくて子どもとの時間を十分作れてなかったり、
そういう切り取りをされても仕方がない、
人によってはネグレクトだと誤解されるような子育てをしてしまってたかもしれない。
そう思うと、
「どのシーンを目撃されたんだろう」とか「近所の人に迷惑かけちゃってたのかな」とか
あれかもしれないし、これかもしれないし・・・と
いくらでも心当たりが浮かんできた。
もちろん虐待や育児放棄など、決定的なことは絶対にないにせよ、
後から思い返して
「あれは確かに疑われても仕方ないかも」
と思うような出来事なんて、
子育てをしている親であれば、誰しも一度は経験があるのではないだろうか？
遡れば、夜中まで何時間も泣き続けて泣き止まない赤ちゃん時代。
かんしゃくを起こして道路にひっくり返って寝転んで泣き叫び、
どうにも手がつけられなくて、親が「無」になった乳幼児期。
子どもが一人で大きな道路に飛び出して車に轢かれそうになり、
鬼の形相で思いっきり頬を引っ叩いた保育園時代。
・・・「そこだけ」を切り取られたら、
通報されかねないようなシーンはこれまでもたくさんあった。
そんな不安を抱きながら、
恐る恐る今回の通報理由の詳細を、児相職員に早速聞いてみた。
恐ろしい通報内容
児童相談所に入った匿名通報は以下の通り。
・靴のかかとを踏んでいる。サイズが買い替えられてないのでは？
・虫歯の治療をしていないのではないか。
・服が小さい、汚れている。
・週末にお母さんが家にいなくて、ご飯がない
・前髪が長い
この文章をテキストだけで見ると、
相当みすぼらしい子どもに見えてしまうことは間違いないwのだが、
私は一つ一つ聞いてて、途中から
めまいがした。
「靴のかかとを踏んでいる。サイズが買い替えられてないのでは」
靴のサイズ関係なく、昔からそういう癖あるだけ。
「虫歯の治療をしていない」
定期的に歯医者通ってるので嘘である。
「服が小さい、汚れている」
成長期の子どもの服、特に食欲旺盛で横にも大きくなり始めたのでサイズアウトが早いのは必然。
絵の具や習字の汚れぐらいつくし、「俺のアートだよ！」って本人が喜んで着たがってるので着せている。
「週末にお母さんが家にいなくて、ご飯がない」
親の用意する昼食より、マックをUberで頼む方がいいという息子本人の希望である。
「前髪が長く、切ってもらえてない」
「俺、前髪長めの方がカッコいいよね？」と鏡で髪を整えながらいう小４に、
なんの邪魔をしようと言うのか。
どれもこれも“その瞬間だけ切り取ったような
どーーでもええ話
ばっかり。
誰がどんな角度から見たか知らんけど、
一部分だけで偏った解釈を作り上げるの、ほんまに怖い。
実際に児相の担当の人に全ての事情を話すと
とても穏やかに丁寧に話を聞いてくれた。
「今回は確認という形です。特に問題はありません」と言われて、
私はその部屋に入ってからやっと、少しだけ息ができた。
一つの側面しか見えない怖さ
でもその帰り道、心の奥にズシンと残るものがあった。
人は一部分で人を判断する。
今回の通報だって、悪意じゃなくて“心配だから”という（余計な）善意。
学校での一瞬。家庭の断片。
たった数秒の切り取りで、勝手に物語が作られていく。
“普通の母親”じゃないと、おかしいのだろうか。
“普通の家庭”じゃないと、間違ってるのだろうか。
私は仕事人であり、母親でもある。
どっちも本気でやってるけど、
「うまくバランスとってます」なんて言えるほど器用じゃない。
SNSの世界と似ている
「普通」なんて誰が決めたのだろう。
完璧な親なんて存在しないし、いるならお目にかかりたい。
完璧にできないと分かってるからこそ折り合いをつけて
子どものペースに合わせて 良かれと思ってやってきたことが
一般的には、一部を切り取られてネグレクト疑いになるらしい。
なんて不条理な世の中なのだろう。
でも、私は身近にいつもそれを感じている。
なぜならSNSの世界がまさにそうで、
人の揚げ足を取り、間違った正義感で暴走したり炎上したりすることが
日常茶飯事で起こるからである。
人は一部分しか見えないし、
その小さな断片から勝手に妄想を作り上げる。
児相の通報でも、SNSの世界でも同じで、
一文や一瞬だけ切り取られ、その人にとって都合のいい解釈をされる。
私はこれからも自信を持って子育てするし、
自信を持って発信する。
誰かにどう思われても、間違ってない自分を信じて動き続ける。
完璧な親にはなれませんし、なる気もありませんがw
これまでも、そしてこれからも、
私は自分の言葉で、自分の生き方を語っていきます。
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あとがき
私はね
通報したのは学校関係者じゃないか？と個人的には踏んでます。
私にはそこまで密に交流しているママ友もいないし、
息子の友だちもいるけど最近そこまで頻繁に出入りさせてもらっているお宅はないし（どちらかというとうちに来るパターンが多い）
何より、見た目とかだけじゃなくて、歯の治療云々の状況って、学校関係者しか知り得ないのではないかなと。
虐待やネグレクトの疑いがあれば学校や医療関係は通報義務があるから、そこは濃厚なのではと思うけども、
私のやってきてる子育てが「その疑いがある」って思われていたのはめっちゃ傷ついてます、正直。
犯人探しはするつもりもないし、学校関係者を敵視したり関係悪化したりとかはないけど、多分そうだろうな、、、という気持ちは拭えない。
でも負けません！！！w
